不動産営業は、ハードで難易度が高い反面、出来高で高収入を期待できるという、あらゆる業界の中で最も営業らしい営業の一つと言えます。その不動産営業に特徴的な営業形態として反響営業というスタイルがあるのは、皆さんもご存知のところだと思います。
一方、IT化、デジタル化という時代の波、さらにはコロナ禍による世界的なビジネス停滞で、もう一つの不動産的な営業スタイル、飛び込みのプッシュ型の営業がかつてほどの有効性を失ってしまっている現実もあります。このような時代に、反響営業の重要性は増しており、そのプロフェッショナルを育てることが何よりも不動産企業にとって大切なのではないでしょうか。
今回の記事では、その反響営業とはどういった営業スタイルなのか、改めてポイントを整理していきたいと思います。
営業職の種類
まずは、他の営業スタイルとの違いを見ながら、反響営業について考えていこうと思います。
ルート営業
すでに付き合いのあるお客様の相談にのって案件を開拓していくスタイルの営業です。お互いによく知った仲であるため対人関係のストレスは少なく最も取り組みやすい営業ですが、長い付き合いの中で信頼関係ができていて初めて可能な営業スタイルのため、誰でもできるわけではありません。このような顧客という資産を持てるようになるには、次にあげるような飛び込み営業や反響営業をこなしていく必要があります。
飛び込み営業
企業や個人宅をアポなしで訪問し、案件を発掘、提案をしていく営業スタイルです。もともとニーズがあるかわからないところへと訪問することになるため、訪問先から疎まれることも多く、精神的な辛さを感じることの多い仕事です。一方、他のスタイルの営業がアクセスできない潜在的な案件を掘り起こすことができる可能性もあるため、長らく営業の王道とされてきました。しかし、コロナ禍によってアポなし訪問自体が敬遠されるようになった昨今、かつてほどの効力はなくなった手法とも言えます。
反響営業
反響営業とは、チラシ、ダイレクトメール、不動産ポータルサイトや不動産企業のホームページなどに載せられた物件情報から問い合わせをしてきた顧客に対応する営業スタイルです。興味を持って問い合わせてきた以上、飛び込み営業に比べると、成約の確度が高く、効率的な営業スタイルとも言えますが、顧客も確実に買うことを決めているわけではないため、営業スキルがない営業マンでは受注がままならないということも多々あります。ある意味、最も営業スキルによって結果の変わってくる営業スタイルだと言えます。
反響営業の段階
反響営業は3つの段階に分けることができます。一つは広告宣伝の段階、次は問い合わせの段階、最後は追客の段階。それぞれ分けて見てみましょう。
広告宣伝の段階
反響を得るために初めは自社から情報発信をしなくてはなりません。以前はポスティングチラシでの情報拡散が一般的でしたが、インターネットの普及した今は、方法は様々です。不動産ポータルサイトに掲載する、自社ホームページに呼び込む、SNSで発信する、メールマガジンを送信するなど。それらに反応をして、問い合わせをしてきた顧客に対応するところからが営業マンの仕事になってきますが、もし反応自体が少ない場合は営業が自分自身でポスティングをするなどの動きが必要となります。
問い合わせの段階
問い合わせ対応は、お客様との最初の接点ですが、応じ方一つで今後の受注の成否が変わってくる重要なタイミングでもあります。「需要があって顧客から訪れるのだから聞かれたことに答えればいい」と言うわけにはいきません。顧客が求めているニーズを正確に汲み取り、営業マンの方から適切な提案を主体的にしていく必要があります。そのために必要なスキルは次の項目で詳しくまとめたいと思います。
追客の段階
追客は、問い合わせ対応や初回の案内が終わった後の後日連絡の対応です。できる営業マンは追客の管理を徹底します。さらに言うと、できる営業マンは追客をしやすい状況を初回の案内の際、意識的に作り出します。「こちらのタイプの物件は人気があって動きが早いと思いますので、来週一度、ご意向の確認のお電話をさせていただけますか。」「こちらの物件と近い条件のものがあればその都度、ご連絡差し上げましょうか。」など、初回の案内の際に、今後、接点を持つ許可を顧客から得ておきます。接触のタイミングも明瞭に決めておき、顧客の意向が聞き出せるまでは追客を曖昧にすることはしません。顧客からの反響得るために、広告費や人件費、さまざまなコストがかかっています。そのコストを無駄にしないために追客は徹底しておこなう必要があります。
なお追客を自動化する仕組みとして、近年、マーケティングオートメーション(MA)というシステムを導入する企業も増えてきました。詳しくは別記事にてまとめていますので、参考にするのもよいでしょう。
反響営業に求められる能力
ニーズのある顧客が自ら連絡してくる反響営業は、通常の営業よりも簡単に思われがちですが、しっかりとポイントを押さえていないとなかなか成果を上げることができません。この項目では、反響営業をおこなう上で、必要な能力について分析していきたいと思います。
スピード感
反響営業のみではなく、あらゆる営業全般に言えることですが「対応が早い」ということが、できる営業マンの必須条件です。特に反響営業では、問い合わせが入ったその瞬間が一番顧客の熱量が高いのは明白。問い合わせから時間が経てば経つほど、購入への熱量は下がっていきます。いかに早く顧客と接点を持てるようにするかが非常に重要です。
尋ねられたことへの回答、新たな提案など、問い合わせ対応後の工程でもスピード感を持って動けるかが重要です。対応の速い営業マンには顧客も信頼を寄せるため、受注の可能性の向上にもつながります。
ヒアリング能力
「問い合わせをしてみたものの的外れな案内や提案ばかりをされて嫌になってしまった。」「買うつもりだったのに営業と話していて意欲が失せてしまった。」不動産かどうかに関わらず顧客の立場でそのような体験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。世間一般には、営業マンはトーク力が大事だというイメージが付いてしまっていますが、本質としてはトークよりもヒアリング力(聞き出す力)が重要です。顧客が自覚しているニーズを聞き出すのはもちろんのこと、顧客が自覚できていない潜在的なニーズを一緒になって掘り下げていくというスタンスも大切です。「この営業さんは私の要望を深く理解してくれている」。そう思ってもらえるようになれば、競合の不動産会社に顧客を取られることもなくなります。
分析力
顧客へのヒアリングは重要ですが、なりふりかまわず質問をすれば良いというわけではありません。顧客が物件に対して何を求めているのかを分析しながら質問を構成していく必要があります。最初のうちは、話を聞きながら分析して質問をするというのが難しいと感じるかもしれませんが、慣れれば自然とできるようになります。日頃から意識的にトレーニングすると良いでしょう。
戦略性
当然のことながら営業では嘘をつくことはいけません。しかし、情報をどのように出していくのかは営業スキルとして重要です。そこまで魅力的でない物件をいくつか見せた後に、本命の物件を見せることで、より魅力的に感じさせるなど、情報の提示の仕方、順番で人の感じ方は変わってきます。ただ漫然と顧客に物件情報を伝えるのではなく、顧客が購入意欲を高めるような戦略を描きながら案内をすることが大切です。
好感度
車のディーラーに来るほとんどの顧客は、来店前に買う車種をあらかじめ決めているという話があります。そして、買う商品を決めて来店しているのにも関わらず、そのまま何も買わずに帰るということがあるそうです。それはなぜでしょうか。その主な理由は、販売員の接客が好きになれないからだと言います。車という高額な商品を買う場合、そのプロセス自体も心地よく味わいたいのです。不動産物件は車よりさらに高い買い物です。顧客は物件そのものの価値と同じくらい営業マンに対して信頼感、好感度を求めます。みだしなみ、挨拶の仕方、席へのエスコートの仕方など、案内に直接関係ないちょっとした所作でも、人の印象というのは大きく変化します。世の中で最も高い商材の一つである不動産を扱う以上、それに見合った振る舞いを心がける必要があると言えるでしょう。
反響営業におけるITツールの活用
顧客の要望により迅速に、より満足のいく形で対応するためには最新のITツールをフル活用していくことが有効的です。
以下では、不動産業でよく使われている利便性の高いITツールを紹介します。
顧客管理システム(CRM)
反響営業を効率的にするためには、顧客管理システム(CRM)の導入が第一でしょう。顧客管理システム(CRM)を導入すると、顧客情報を一元的に管理でき、問い合わせ履歴やフォローアップの状況を簡単に追跡できるようになります。営業担当者は顧客ごとに必要な対応を把握しやすくなり、より的確な精度の高い提案が可能になります。特に、追客の段階で顧客管理システム(CRM)を活用できていれば、フォローアップの抜け漏れを防ぎ、成約率を飛躍的に向上させることができるはずです。
チャットボットの活用
チャットボットは、人工知能(AI)を活用して自動的に顧客との会話を行うシステムですが、最近では、チャットボットが不動産業界でも広く利用されるようになってきました。チャットボットを導入することで、24時間体制で顧客の質問に対応できるようになり、顧客満足度を向上させることが可能です。初回の問い合わせ対応を迅速に行うことで、顧客の購入意欲が高いタイミングを逃さず、成約の確率を高めることができるでしょう。
データ分析ツール
データ分析ツールとは、収集されたデータを整理・解析し、ビジネスの意思決定をサポートするアプリケーションです。データ分析ツールを活用すると、顧客データを詳細に分析することができ、それを元に顧客のニーズを予測することができます。より具体的なデータを用いることによって、論理的かつ効果的な広告戦略を立案することができるようになります。
まとめ
問い合わせありきの反響営業ですが、決して誰でもできるような簡単な仕事ではありません。顧客との一つ一つの接点で緊張感を持って対応をしていくことが成果につながります。日々の仕事の中で、研鑽意識を持つか、持たないかで結果が大きく変わっていく、それが反響営業と言えます。