営業職の仕事は、コロナ禍に最も影響を受けたものの一つだったと言えるのではないでしょうか。
「営業は足を使え」という言葉が象徴するように、企業に足しげく訪問することが営業職の美徳であり、成果を上げるための最もポピュラーな手段でした。しかし、コロナ禍でむやみに移動すること、訪問することが社会的に許されない行為と位置づけられるようになり、訪問を中心とした営業手法は変化を余儀なくされました。
そのような状況の中、注目をされたのがインサイドセールスという営業手法です。インサイドセールスは訪問ができない状況下でも機能する営業手法であるのと同時に、トップセールスパーソン個人の能力に依存しがちという不動産業界独自の課題を解消してくれる可能性も持っています。
今回はインサイドセールスとは何なのか、その活用のメリット、デメリットなどについてお伝えしていきたいと思います。
インサイドセールスとは
インサイドセールスの定義
インサイドセールスは、電話やメールという手法を使い、訪問をしない非対面の形で、顧客に対して営業活動を行う職種のことを指します。顧客の商談アポイントを取ることだけを目的にしているテレアポと異なり、アポ取りの他、顧客へのヒアリングや情報提供を行ったり、顧客の検討段階の遷移を促したり、いわゆるリード・ナーチャリング(見込み顧客育成)も業務に含まれます。さらに顧客から取得した情報や対応の履歴入力など顧客データを管理する役割も担います。
インサイドセールスに対して、実際、顧客を訪問して、商談をクロージング、契約を結んでくる外勤営業のことをフィールドセールスと呼びます。インサイドセールスは、顧客からヒアリングした情報の提供など、フィールドセールスが商談を成立させるために必要なサポートをしていくポジションであるとも言えます。
インサイドセールス導入のメリット・デメリット
インサイドセールス導入のメリット
営業担当の負担を軽減できる
従来の不動産営業は、見込顧客の発見、電話やメールによる顧客ニーズのヒアリング、アポ取得、訪問、提案、クロージングまで、自分一人でこなしていたかと思います。そして、営業にとって顧客対応も一様ではありません。初アポの対応もあれば、提案資料の作成、契約締結時の書類整備、アフターフォローなど、様々なフェーズの顧客対応を同時進行でこなさなくてはなりません。非常に負担の重い仕事です。
もしインサイドセールスの部門を創設すれば、その負担は飛躍的に軽くなります。潜在顧客の発掘から情報収集、情報管理、アポ取りまでの業務を全て、インサイドセールスの部門が担ってくれれば、外勤営業はフィールドセールスとして、最終的な商談、クロージング、契約という専門性の高いコア業務に集中することが可能です。
クリティカルな営業スキルを持つ人間をコア業務のみに携わらせることで、業務の負担を軽減させ、さらに営業の精度をあげることも可能になります。
さらに、感染症が猛威を振るう昨今、訪問をせず顧客接点を持てるインサイドセールス仕事は時代のニーズにもマッチした営業体制だと言えます。
営業スキルを非属人化できる
前述の通り、不動産営業は一人で重い業務負荷、膨大な仕事量を抱え込んでいるケースも少なくないはずです。そして、その人材が退職、独立などで抜けたときのその企業の損失は計り知れないものになるでしょう。
トップセールス個人の能力に依存して売り上げが成り立っているとしたら経営リスクは高く、企業体として不健全と言わざるをえません。そういう状況を変えていくためにもインサイドセールスの導入は大きな効果を発揮します。
インサイドセールスを部門として営業体制に組み込んだ場合、既存の外勤営業がやっていた仕事の一部を切り出す形になるため、インサイドセールスとフィールドセールスの間で営業進捗についての共有体制が構築されるようになります。その共有体制の中で、今まで1人のセールスパーソンの頭の中に止まっていた営業知見やノウハウがインサイドセールスのスタッフにも伝わり、社内ナレッジとして蓄積されるようになります。この体制が維持されれば、中長期的にいずれ1人のトップ営業の存在に依存しない組織へと会社が変貌していくことでしょう。
分業による効率化
インサイドセールスは営業活動の一部分のみを担う存在のため、一定の範囲内の業務を繰り返します。そのため、業務習得のスピードが早く、職能も熟練していきます。一人前の営業を育てることを考えたら、非常に短い期間で人材を育てることが可能です。さらに社内で同一業務を続けるため、追客もこまめに行うことができます。例えば外勤営業が全て行う体制だと、商談中は別の顧客の追客はできません。別業務の対応でタイミングロスが起こりえます。インサイドセールスのような専業の場合、時間管理によって小回りの効いた業務遂行が可能です。インサイドセールスでは、このように分業による業務効率化が生まれます。
分業によるコスト削減
もし不動産業務全てをこなせる外勤営業を採用しようと思ったら、採用広告にしても、人材紹介にしても莫大な予算が必要になってきます。しかし、インサイドセールスなら、社内の教育体制さえ整えれば、未経験者からでも採用が可能になり、採用予算を大幅に下げることが可能です。さらに、分業で部門制にしていくことで、「人当たりがよく電話の受け答え上手い人」「エクセルのスキルが卓越している人」などさまざまな属性の人材を採用していくこともできるようになり、社内の人材の幅も広がります。
インサイドセールス導入のデメリット
マネージメント能力が必要になる
インサイドセールスは営業の業務を分担することで、業務の効率化や業務スキルの分散化を図るのを目的としていますが、それは同時に社内の人員数の増加を意味します。かつては1人の営業に丸々と仕事を任せていれば良かった仕事に関して、多くの人員が関わることになり、細かい指導や管理が必要となってきます。いわゆるマネージメント体制の構築が求められます。独自の体制が確立できるまでは綿密に状況を確認し、微修正を行って行かなくてはなりません。一方で、体制を確立できれば、そのこと自身が自社の資産となり、競合優位性へと変わっていくことでしょう。
縦割り構造が生まれやすい
分業化を進めた場合、特定の業務にだけ詳しい人材が多くなります。それは専門に特化することで前述の通り業務効率化を促進してくれますが、一方で全ての業務を突貫して見れる視点が乏しくなることも意味しています。「とにかくアポを取れば良い」というスタンスのテレアポでは、フィールドセールスの業務に悪影響を与えてしまいます。自分の部門の成果にだけとらわれず、最終的な成約にむけた道筋を考えられる管理者がいないと現場は混沌としたものになってしまうことでしょう。
インサイドセールスを導入するには
前述の通り、インサイドセールスの導入は業務効率化、営業スキルの社内共有化をもたらし、経営環境を安定させる効果が見込めますが、しっかりとした制度設計に基づかないと、現場に混乱をもたらす可能性もあります。
インサイドセールスを導入するにあたって、どのようなことを注視し、どのようなプロセスで進めるのが良いのか、その点を確認していきましょう。
インサイドセールスの業務範囲を明確にする
インサイドセールスの役割は、外勤のフィールドセールスが見込顧客を受注できるようにするために後方支援をすることですが、具体的にどこからどこまでのアクションをインサイドセールスが担うのかは考えておく必要があります。
見込顧客を見つけることに特化するのか、見つけることだけではなく見込顧客に情報を提供し購入意欲を高める工程にも関わるのか、アポ後のアフターフォローも行うのか。フィールドセールスと連携で詳しく決めておくことが大切です。
人員配置と管理体制
インサイドセールスの場合、採用する人員も従来の営業採用と基準を変える必要があります。自分1人でやり切るワンマンタイプの人材より、人と人との関係性を上手く構築できるコミュニケーション能力の高いタイプの人材の方がフィットするでしょう。あと、PCで顧客管理のツールなどをつかいこなす必要があるため、ITに関するリテラシーが高いことが求められます。データの入力もあるため、タイピングスキルや正確性の高さも要件となってくるでしょう。
スタッフの人数が多くなってきたら、業務水準の均一化を図る必要があります。スタッフによって、ヒアリングしていることに差がある、データの入力内容の判断基準が違う、追客の頻度やタイミングが異なる、などバラ付きがあると、統制が取れなくなってしまいます。上に立つ管理者が明確で具体的な業務遂行ルールを定めて、指導していくことが求められます。
目標の設定
インサイドセールスのスタッフはフィールドセールスに案件を引き継いでしまうため、売上数字や達成率で成果を測ることができません。別の指標で部門の目標を立てる必要があります。一番わかりやすい指標としては、フィールドセールスに引き継いだ「商談数」を評価軸にすることです。あとは家電数、家電時間、顧客接触数、顧客接触率などを組み合わせて加点評価をする等、微調整を行うと良いでしょう。例えば時短勤務で働くスタッフがいる場合、商談数よりも勤務時間に対しての商談率を評価する考え方もないといけないでしょう。
ITツールの導入
インサイドセールスの可能性を飛躍的に引き伸ばしたのが、コロナ禍におけるオンライン営業システムの急発展でしょう。インサイドセールスで最低限、取り入れたいツール2種を紹介します。
オンライン商談システム
こちらはコロナ禍で一気に普及したツールなので、ご存知の方も多いでしょう。「zoom」や「Google Meet」が代表するオンラインでやりとりができる面談ツールです。画面越しでお互いの顔を見ながら会話ができるほか、PCの画面を共有できたり、チャットテキストやファイルも自由に送りあったりと使い勝手として申し分のないところまで進化しました。かつてはインサイドセールスと言ったら、電話のみの営業が主でしたが、オンライン商談システムを使うことで、今は訪問する営業と近いような顧客アプローチができるようになっています。
MAツール(マーケティング・オートメーション・ツール)
MAとはマーケティング・オートメーションの略です。見込顧客の情報の一元化、検討段階に応じた購入喚起施策の管理などができるツールで、顧客ごとに対する次の必要なアクションを自動的に知ることができるようになります。かつてのマンパワーと紙ベースで管理していた見込顧客への営業進捗管理をツールによって自動化することで取りこぼしや穴のない顧客管理を実現できます。
マーケティングオートメーションについては別のページで詳しく記載していますので、そちらもご参考にご覧ください。
まとめ
インサイドセールス導入は、業務の効率化、コスト削減、営業ノウハウの共有化など、企業経営を盤石にする効果をもたらす可能性がありますが、導入にあたっての制度設計を綿密にしないと混乱を招くこともありえます。インサイドセールスは、経営陣や管理層のしっかりとした話し合いのもと、場合によっては外部の協力も仰ぎながら導入するのが良いでしょう。